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【開発者インタビュー】コロナ禍で迫られるデジタル化 安くて簡単「My-IoTプロジェクト」が描く未来

2021年01月07日 更新

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インターネットを介してすべてのモノがインターネットにつながるIoT(Internet of Things)。My-IoTプロジェクトは、導入のハードルが高いとされてきたIoT技術を「安く」「早く」、そして「簡単」に多くの企業、利用者が利用できるようにするプロジェクトです。My-IoTが目指す未来とは。プロジェクトの中心メンバーである、岡山義光・NEC デジタルプラットフォーム事業部技術主幹、井上弘士・九州大学大学院システム情報科学研究院教授(システムLSI研究センター長)にお話をうかがいました。

コンピューターが人間に合わせてくれる世界

――そもそも「IoT」とは、どういったことなんでしょうか?

 岡山:「Internet of Things」とはつまり、全てのモノがインターネットにつながる世界のことです。今までインターネットにつながっていなかったモノを含めて、すべてのモノをインターネットにつなぐことを一般的にIoTと呼んでいます。

IoTでは、現実世界で起きている現象をデジタル化し、世界中のデジタルデータをクラウドに集めます。「ビッグデータ」という言葉を聞いたことがありますか?

そのように得られた巨大なデータをつなぎ合わせて、さまざまな課題を解決していく仕組みがIoTなのです。

 井上:AIやビッグデータを活用するためには、私たちの身の回りの世界をいったんデジタル化する必要があります。デジタル化したデータを集約して最適解を導き出し、現実世界にフィードバックしてあげるわけです。「暗くなったら部屋の照明をつける」とか、「赤く実ったトマトだけを収穫する」とかですね。

――私たちの行動を先回りしてくれるわけですね。

 井上:パソコンって便利ですけど、私たちはパソコンに合わせて正しく操作してあげなければなりません。一方で、私たちが目指しているMy-IoTシステムでは、「健康状態を恒常的にチェックしたい」とか、ユーザーが解決したい課題が先にあって、それらの課題に合わせてパーソナライズ化されたシステムが存在します。

人間がコンピューターに合わせるのではなく、コンピューターが人間に合わせる世界。これが私たちの目指しているIoT社会です。

岡山義光(おかやま・よしみつ)
NEC デジタルプラットフォーム事業部 技術主幹、電気通信大学理事(キャンパス情報基盤担当)、産学連携機構九州 My-IoT事業企画センター 副センター長

――コンピューターが人間に合わせてくれる。

 岡山:情報処理をしてくれる「コンピューター」が各現場だけでなく、クラウドにも存在しているという点も重要です。

例えば、巨大な自動車工場に生産管理をしてくれる情報処理のコンピューターがあったとします。集められるデータは当該工場のデータだけです。クラウドにデータを集めることで、離れた場所にある複数の工場の生産データを一元管理でき、気象情報とか、株価や為替、社会情勢にまつわる情報なども加味して需給予測を導きだし、会社全体の生産計画を立てられるようになります。

――ただ、あまりIoTの導入事例は聞きませんね。

 岡山:これだけ便利なシステムですが、IoTは大企業製造業など一部の事業領域でしか活用されていません。小売りや農林水産、介護・医療分野など、幅広い業種でIoTが活用されることで、より多くの課題解決に貢献できると考えています。

安くて簡単、スピーディーに導入可能

――導入のネックはやはりコストですか。

 岡山:そうですね。それぞれの企業が抱える課題はまちまちで、利用者の数だけ課題が存在します。IoTを導入するにしても、事業所単位でIoTシステムをカスタマイズする必要が出てきます。

そのため、導入する側には相応の資金的な体力が必要になります。経営者の多くは「設備投資にかける分で、新たに人を雇った方が早いよ」となりがちです。そのため、国内では大規模製造業を除き、現場におけるIoT化、デジタル化が遅れているのが現状です。国内に技術はあるのに、現場に浸透していない。この「IoT格差」が今後、社会問題として表面化することを危惧しています。

あまねく利用者にIoTの恩恵を享受してもらいたい。「自分たちにとって最適化されたIoT」。それがMy-IoTプロジェクト出発の原点です。

――導入コストを下げる工夫があるのですか?

 岡山:自社でIoTシステムが構築ができたなら、導入コストは少なくて済みます。My-IoTでは誰もが簡単にIoTシステムを構築できるようにエコシステム(ビジネス生態系)をデザインしています。

井上弘士(いのうえ・こうじ)
九州大学大学院システム情報科学研究院 情報知能工学部門 教授、九州大学システムLSI研究センター センター長、産学連携機構九州 My-IoT事業企画センター センター長

 井上:井上:スマートフォンのアプリをダウンロードするような感覚で、システムを手に入れられる「IoT版ストア」の開発を進めています。このストアには、IoTアプリをダウンロードするだけで使えるようにする機能だけでなく、自分たちの課題に合致したシステムへとカスタマイズしたい利用者向けに、パーツ(部品)を利用する機能も用意します。利用者は各部品を組み合わせて、オリジナルのシステムを構築することができる世界を目指しています。

――システムを構築するには、プログラミングの専門的な知識が必要になるのでは?

 岡山:いいえ。パソコンを普通に使える人なら、システム構築が可能な仕組みを想定しています。導入段階のハードルを低くして、運用しながらより高度なシステム構築が可能になるよう、利用者向けの教育プログラムもMy-IoTで提供していく予定にしています。

教育プログラムの対象は、実際にシステムを構築・運用する人だけではありません。導入を検討している経営者に向けたセミナーなども考えています。IoT導入には経営層の意識改革も重要です。教育プログラムについては2020年度中に方向性を決めます。

――安価で簡単、さらにスピード感を持ってIoTが導入できそうです。

 岡山:そうですね。従業員が少ない中小・零細企業でも導入・運用のハードルが低く、広くあまねくIoTの恩恵にあずかることができるのが、My-IoTの基本思想です。

コロナ禍のデジタル格差解消に貢献

――プロジェクトは今後どのようなスケジュールで展開していきますか。

 岡山:ストアの基本的なシステムは完成しています。My-IoT コンソーシアムメンバー(2021年4月より活動開始)向けの公開は2021年度下期を予定しています。

――コロナ禍の今、デジタル化は喫緊の課題です。

 井上:おっしゃるとおりで、社会はコロナ禍を体験し、急速にデジタル化に舵を切ると予想しています。その過程でデジタル格差が生じてはならないと考えています。

2020年度、福岡県内の事業者が、My-IoTを活用した実証実験に参加してくださっています。そこでは課題解決にIoTがたしかに貢献しています。多くの人にMy-IoTエコシステムに参加してもらいたい、体験していただきたいと思っています。

 岡山:現在のIoTプラットフォームビジネスは垂直統合型のモデルで構築されています。IoTシステムを売ることに主体が置かれていて、高コスト体質がIoTを普及させるための障害になっています。

この課題は誰かが解決しないといけません。My-IoTプロジェクトは、産学官が連携してこの課題にチャレンジしています。

My-IoTプロジェクトを通じて、IoTのメリット、デジタル化のメリットを多くの利用者に享受していただけると考えています。

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