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【産学連携で不可能を可能に】九大の支援で自動運転システムを自社製品に導入
2021年03月08日 更新
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草刈り機の自動化で農業の負担を軽減したいーー。農機具メーカー「オーレック」(福岡県広川町)は、My-IoTプロジェクトに参画し、草刈り機の自動運転化に向けた研究開発を進めています。2020年に平地での走行試験をクリアし、今年から実際の圃場を使った走行試験を開始します。農家の負担を減らし、持続可能な農業を実現したいと語るオーレックの挑戦をうかがいました。
ブランドコンセプトは “草と共に生きる”
――オーレックの事業について教えてください。
農機具の中でも、草刈り機の製造、販売を中心に事業を展開しています。草刈り機の商品群は全て自社開発で、組み立ては福岡県広川町の本社工場で行っています。
草刈り機は水田や畑、果樹園など、様々な農業現場で活躍しています。水田除草機は業界初の技術で稲の間の草を取り除きます。農家に負担をかけず、除草剤に頼らない草管理を実現することで、食の安全・安心や持続可能な農業を弊社製品から発信していきたいと考えています。
――オーレックは「環境」「食」などの分野にも取り組んでいますね。
製品のショールーム機能を備えたブランド発信拠点「OREC green lab(以下:グリーンラボ)」を2016年から、長野市、青森県弘前市、福岡市に相次いでオープンしました。
福岡市のグリーンラボはオフィス街ということもあり、カフェを併設しています。カフェでは弊社の製品を使って育てた農作物を素材にしたメニューを提供しています。食を通じて農業や環境に関心を持っていただくきっかけにしたいと考えています。
――IT分野にも取り組んでいます。
家庭菜園を楽しむ人向けのコミュニティーサイト「菜園ナビ」を運営し、登録者数も増えています。コロナ禍で家庭菜園への関心が高まっているようで、昨年はサイトの訪問者数が大きく増えました。
持続可能な農業の実現へ
――草刈り機の自動運転化について教えてください。
農業現場では「高齢化」と「後継者不足」という二つの大きな課題に悩まされています。
雑草が育つのは、春から秋にかけての暑い時期です。炎天下の草刈り作業は熱中症の危険が伴う作業になります。種まきや収穫作業とは異なり、草刈りは育成や収穫には当たらない付属的な仕事です。草刈り作業をいかに省力化するかが、農家にとっては切実な課題なのです。
そこに、自動で草刈りをしてくれる自走式の草刈り機を導入することで課題を解決しようというのが弊社のプロジェクトです。
ーー具体的にどういったシステムなのでしょう?
クラウドの地図データを用いて、草刈り機は指定された範囲の草刈りを自動で行います。
昨年11月、関係者向けに走行試験を披露しました。障害物のない平坦な場所での走行試験でしたが、草刈り機は指示通りに動作しました。今年は実際の圃場に近い環境で、自動運転の試験を進めていく予定です。
――操作は難しくありませんか?
タブレット端末を使い、地図上に草を刈るエリアを指示するだけです。誰でも簡単に操作できるよう、操作面は出来るだけシンプルにするつもりです。
――今後の課題はありますか?
農機具の自動運転技術は、トラクターや田植え機などの大型機械では既に実用化されています。ただ、田畑は起伏がなくなだらかで、上空はGPS信号を遮るものがなく受信環境も安定しています。
一方、草刈り機で自動運転を実現しようとする場合、斜面や起伏に強くなければなりません。例えば果樹園。枝が頭上を覆っているので、GPS信号の受信環境が悪く、大切な樹木を傷つけない走行も必要です。広大な田畑と比べると、より繊細な自動運転システムが求められます。乗り越えるべき課題は山積しています。
――My-IoTに参加したメリットはありましたか?
弊社は草刈り機本体の開発に集中でき、自動走行のアルゴリズムや各種センサー類は九州大学、制御や命令系をNECに支援していただいています。弊社は自動運転のノウハウを持っていなかったので、My-IoTに参加することで開発が加速しました。My-IoTでは企業ごとにプロジェクトが進められています。参加している企業間の情報共有にも取り組んでみたいですね。
――オーレックの今後について聞かせてください。
弊社はブランドコンセプトに「草と共に生きる」を掲げています。環境負荷の少ない農業を通じて、持続可能な社会づくりを支援していきたい。農機具メーカーの枠組みをこえた新たな模索を始めています。草刈り機の自動運転化はニッチな分野ですが、公園管理や道路管理など市場は農業だけにとどまりません。草刈り機の自動運転化を早期に実用化したいと考えています。